青が散る×フジファブリック

書評

好きな小説は何?と聞かれたら、僕は吉田修一の「横道世之助」とこの作品を挙げます。

横道世之助の書評についてはこちら。

宮本輝の「青が散る」です。

高校生の時にこの小説と出会い、多分10回くらい読み返しています。自分にとって非常に思い入れのある作品かなと。

あらすじとしては、主人公の椎名遼平がとある新設大学に入学し、テニスに打ち込む。その4年間を切り取っています。

その4年間の間に、報われない片想いや、越えられない現実の壁、将来への不安、焦燥感など、いつの時代の大学生も普遍的に感じるような思いを遼平は味わっていきます。個人的に、どうしても主人公とその周囲の人達が織りなす群像劇に弱いようです。。。

さて、僕がこの小説を好きな理由。

それは、主人公である遼平を始め、登場人物たちが4年間の間に何かを喪うその儚さをうまく切り取っているからなんじゃないかと思っています。

この小説の始まりはとある新設大学の目の前で主人公の遼平が入学するか迷っているシーンから始まります。
そして結末も同様の場所、まさに大学を卒業する間際というシーンで幕を閉じます。

始まりと終わり、場所は同じ。4年間の中で主人公の遼平を始め、出てくるキャラクターの多くが大切な何かを喪っている。(抽象的になってしまうのですが、本当にそんな印象なのです)

始まりと終わりの場所が同じだからこそ、それを如実に感じさせられるんですよね。


遼平は、とある新設大学に入学しようか、キャンパス前で迷う。
そこで、夏子と出会う。
遼平は、夏子に一目ぼれしてしまい、つられて入学しようと決意していまう。

そんなシーンから、小説はスタートします。
若々しき、4年間の始まり。
一目ぼれから始まる大学生活なんて、なんてロマンチックなのでしょう!

この間、遼平はテニスに打ち込み、友人の失恋のやけ食いに付き合ったり、想いを寄せられている女性にまったく気づかないほどの鈍感ぶりを見せたり。一貫した夏子への想いを持ちながら、物語は進んでいきます。

まあここらへんは読んでください!
特に大学生!
共感できるところが一杯です!

熱中できるものを探してる大学生も、将来への焦燥感を感じてる大学生も、狂おしいばかりの報われない恋に悩んでいる大学生も、人生の意味がわからず死にたいと思っている大学生も!

読め!処方箋や!

ふう、興奮してしまった。話を元に戻しましょう。

そんなこんなで、キャンパス前で夏子と出会ったところから彼の大学生活がスタート。
4年間、遼平の一貫した夏子への想いだけは変わりなく、時は進む。
そして、時は経ち、卒業の時を迎えます。


物語のラストは、遼平が夏子と出会った、あのキャンパス前。
入学を決意した4年前と、同じ場所。

夏子「遼平、私みたいな傷物は嫌?」

青が散る P467

彼女は言う。
夏子という扉が、遼平の前に開かれようとしている。
しかし、遼平がその扉をこじ開けることはない。

なぜ遼平が、キャンパスから立ち去っていく夏子を追いかけなかったのか。
きっと、遼平は歩いていく彼女の後姿を見て、もう二度と夏子と会わないと決めたのだと思います。

これは僕の想像ですが、物語から数年後、遼平は社会人になった金子や貝谷と数年に一度、善良亭で餃子とビールを煽ってテニス部の頃の昔話をしたりするのでしょう。そして金子から「そういや夏子はどうしてるんか。遼平、お前会っとらんのか?」みたいな話を振られ、「会ってないよ」とポツンと答えるのかもしれません。金子はずり落ちたメガネを持ち上げながら「そうか」と言ったきり、皆もくもくと餃子とビールを口に運び続けるのかもしれません。

遼平は会社で出会った女性と付き合って結婚して、子供が産まれて、そしていつの日か夏子や裕子のことを少し思い出しては感傷に耽るのだろうか。

それとも、思い出さずに忘れていくのだろうか。


改めてこの小説を先日読み返したら、なぜかフジファブリックの「エイプリル」と「クロニクル」が頭の中をよぎりました。

聴けば聴くほど、なんかこの小説に合うな。。。
エイプリルの歌詞なんて、まさに遼平と夏子の関係を最初から最後まで表してるようにしか思えなくなってきたw

特に最後の夏子を追いかけないシーンなんてもう合いすぎて。。。

また春が来るよ そしたのならまた

違う景色がもう見えてるのかな

振り返らずに歩いていった

その時僕は泣きそうになってしまったよ

それぞれ違う方に向かった

振り返らずに歩いて行った

フジファブリック「エイプリル」

遼平と夏子の関係が「エイプリル」だとしたら、遼平をはじめとする登場人物たちが感じていた焦燥感や虚しさは「クロニクル」だなって思う。

遼平も多分、あんなに好きだった夏子のことをこの先忘れていく。

気にしないで 今日の事は

いつか時が 忘れさせるよ

たまに泣いて たまに転んで 思い出の束になる

誰か出会って そして泣いて 忘れちゃって 忘れちゃって

君は僕の事を 僕は君の事を

どうせ忘れちゃうんだ そう悩むのであります

覚えてるかい? 君と並んで 乗ったブランコ

今は無いんだ 僕ら何か

手に入れては 離しちゃって

描いていた夢に 描いていた夢に

近づけてるのかと 日々悩むのであります

君は僕の事を 僕は君の事を

どうせ忘れちゃうんだ そう悩むのであります

描いていた夢に 描いていた夢に

近づけてるのかと 日々悩むのであります

フジファブリック「クロニクル」

 夏子のことが好きだった遼平、遼平への想いを打ち明けた祐子、夏子のピンナップを心に留めながら自死した安斎。

物語の始まりと終わりは、おんなじ場所。
色々なものを、4年間の間に彼らは喪いました。
それを表すのが、「青が散る」という表題なんだろうな。

キミに会えた事は キミのいない今日も 人生でかけがえの無いものでありつづけます

フジファブリック「クロニクル」

とてもフジファブリックが聴きたくなる名作小説です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました